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データで変わる金融機関営業:本業支援の新時代

金融機関を取り巻く環境は、今まさに歴史的な転換点を迎えています。
日銀の金融政策転換、少子高齢化に伴う労働力不足、異業種参入による競争激化――これらの変化は、従来の営業スタイルの根本的な見直しを迫っています。
特に融資先企業の本業支援を担当される職員の皆さまにとって、「データ活用」は今後の競争力を左右する最重要テーマとなるでしょう。

目次[非表示]

  1. 1.なぜ今、データドリブン営業なのか
  2. 2.データ活用が実現する3つの変革
  3. 3.実践!データドリブン営業への3ステップ
  4. 4.融資先企業へのデータ活用支援という視点
  5. 5.「金利のある世界」で求められる本業支援の質
  6. 6.これからの金融機関職員に求められるスキル
  7. 7.まとめ:データが拓く本業支援の未来

なぜ今、データドリブン営業なのか


NTTデータの調査によれば、金融機関のデータ利活用成熟度は大きく4つのフェーズに分類されます。都市銀行がStage 2「意思決定の高度化」に注力する一方、地域金融機関の多くはStage 1「実数把握の高速化」の段階にあります。この差は、今後の本業支援力の差となって表れる可能性が高いのです。

金融庁の「地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題」レポート(2024年6月)でも、データに基づく顧客企業の事業性評価の重要性が強調されています。もはや経験と勘だけに頼る属人的な営業では、融資先企業の真の経営課題を捉えることも、効果的な本業支援を提供することも困難な時代となっています。

データ活用が実現する3つの変革

  1. 融資先の経営状態を「リアルタイム」で把握
    従来、融資先企業の経営状況は年1回の決算書や定期的な訪問による情報収集に依存していました。しかし、TKCモニタリング情報サービスのようなデジタルツールを活用すれば、月次試算表や財務データをリアルタイムで把握できます。現在497の金融機関がこのサービスを利用しており、メガバンク、地銀、第2地銀、信用金庫の9割超が融資判断や融資先モニタリングに活用しています。

これにより、融資先企業の資金需要を素早く掴み、タイムリーな金融支援につなげることが可能になります。経営改善が必要な企業に対しても、月次での状況変化を追いながら伴走型支援を実施できるのです。

  1. データ分析による「深掘り」と「打ち手」の質向上
    BIツール導入で以下の効果が期待できます。

業務効率化:複数データの自動集計・加工により工数削減、現状把握や戦略立案に時間を充てられるように
多角的分析:さまざまな切り口でデータ分析することで事実の解像度が向上、効果的な打ち手の判断が可能に
迅速な合意形成:作成したレポートをそのまま関係者に共有でき、マネジメント層との合意形成時間が短縮
特に重要なのは、計数情報だけでなく顧客情報やマーケット情報を組み合わせた分析です。これにより、支店ごとの状況に合わせた提案商品が明確になり、目標達成への具体的な道筋が見えてくるのです。

  1. AIとデータの融合による「次世代の本業支援
    2024年以降、金融機関における生成AI活用が急速に進展しています。M銀行はIBM watsonxを活用した融資審査システムを開発し、人手依存による審査遅延の課題を解決しました。K銀行は2025年5月からAIを活用した消費者ローン審査モデルの運用を開始し、審査の高度化と効率化を両立させています。

生成AIとデータ分析の組み合わせは、融資審査の効率化にとどまりません。シンガポールのDBSでは、行員向けバーチャルアシスタントに生成AIを活用し、行内マニュアル参照や他部門への問い合わせ業務を大幅に削減。顧客応対に集中できる体制を構築しています。

日本の金融機関でも、融資先企業の決算書分析、業界動向調査、経営課題の仮説立案など、本業支援に必要な情報収集・分析業務にAIを活用する動きが広がっています。これにより、職員は付加価値の高い顧客対話や提案活動により多くの時間を割けるようになるのです。

実践!データドリブン営業への3ステップ


では、データを活用した本業支援を実践するには、何から始めればよいのでしょうか。NTTデータが推奨する「デジタルサクセス®プログラム」の考え方を参考に、実践的なステップをご紹介します。

ステップ1:「大きくざっくり」方向性を定める
まずは完璧な計画を目指すのではなく、データ活用でどのような変革を実現したいのか、大まかな方向性を1〜3ヶ月程度で設定します。

数値をもとに現状理解や打ち手を検討する時間が生まれ、経営陣は事実に基づく適切な判断ができるようになり、全体として生産性が向上するというビジョンです。

ステップ2:「小さく早く」始める
構想段階で100%の完成度を追い求めず、効果が見込まれる業務やテーマから実際にスタートさせることが重要です。

最初のユースケースとして効果的なのは、経営層の目に触れる「経営・営業情報の一元化」です。前述の地域金融機関では、このユースケースでBIによるデータ集計の自動化や過去データの再活用を実現し、マネジメント層に「データで事実に基づいた打ち手の検討ができる」ことを体感してもらいました。データ活用には業務部門からのボトムアップと経営層からのトップダウンの両方が重要ですが、経営層の理解と支援を得ることが全行展開の鍵となります。

ステップ3:習慣化して横展開する
効果が確認できたユースケースを他部門やテーマに横展開し、データ活用を組織文化として定着させます。

具体的な展開領域としては以下が挙げられます:

営業活動の高度化:顧客セグメント別の提案最適化、訪問優先度の算出
リスク管理の精緻化:融資先の早期警戒システム、業種別リスク分析
本業支援の具体化:融資先企業のWebサイト改善提案、販路拡大マッチング、デジタルマーケティング支援

融資先企業へのデータ活用支援という視点


本業支援において見逃せないのが、融資先企業自身のデータ活用を支援するという視点です。中小企業庁の「攻めのスマートSME」調査でも、金融機関が中小企業のデータ利活用を後押しする重要性が指摘されています。

例えば、あるフィナンシャルグループはSaaS型ERPパッケージを中小企業に提供し、バックオフィス業務の最適化を支援しています。S銀行は本店ビル内で取引先の給与計算や年末調整などをアウトソーシングで引き受けています。

これらのサービスは単なる業務効率化支援にとどまりません。融資先企業のデータをデジタル化することで、より精緻な経営分析や資金需要予測が可能になり、タイムリーな金融支援や経営助言につながるのです。融資先企業と金融機関の双方がデータ活用を進めることで、地域全体のデジタルエコシステムが形成され、他地域・他業態との差別化要因となります。

「金利のある世界」で求められる本業支援の質


2024年7月、日本銀行は短期金利の誘導目標を0.25%程度に引き上げました。これは金融機関にとって10年以上経験しなかった「金利のある世界」への回帰を意味します。

日本総研のレポート「金利のある世界で地銀に求められる本業支援」(2024年12月)によれば、金利上昇局面では融資先との対話を強化し、公開情報の収集や業界動向の調査を行い、融資先ビジネスを多面的に分析・評価して経営課題を抽出することの重要性が指摘されています。

金利上昇は融資先企業の負担増を意味します。だからこそ、金利以上の価値を提供できる本業支援が不可欠です。データに基づく精緻な経営分析、業界トレンドを踏まえた戦略提案、販路拡大やコスト削減の具体的支援――これらを実現するには、データ活用が必須なのです。

これからの金融機関職員に求められるスキル


データドリブン営業への転換は、職員に新たなスキルセットを求めます。ただし、すべての職員がデータサイエンティストになる必要はありません。必要なのは以下の3つの能力です:

  1. データリテラシー
    BIツールの基本的な操作、グラフやダッシュボードの読み解き方、データから事実を抽出する力。これらは専門的なプログラミング知識がなくても習得可能です。

  2. 仮説思考力
    データを見る前に「どんな課題があるか」「どんな傾向があるはずか」という仮説を立てる力。データはあくまで仮説を検証するツールであり、仮説なきデータ分析は方向性を失います。

  3. 対話力とコンサルティング能力
    データ分析の結果を融資先企業にわかりやすく説明し、具体的なアクションにつなげる力。数字を並べるだけでなく、「だから何をすべきか」を共に考えるパートナーシップが重要です。

まとめ:データが拓く本業支援の未来


金融機関営業のデータドリブン化は、もはや「やったほうがいい」というレベルではなく、「やらなければ生き残れない」段階に来ています。しかし、これは単なる危機ではなく、むしろ大きなチャンスでもあります。

データ活用により、これまで見えなかった融資先企業の経営実態が可視化され、タイムリーで的確な支援が可能になります。経験と勘に頼る属人的な営業から、データに裏打ちされた再現性の高い本業支援へ。若手職員でもデータとAIのサポートがあれば、ベテラン並みの分析と提案ができる時代が到来しています。

金融政策の転換、人口減少、異業種参入――外部環境の変化は待ってくれません。しかし、データという「武器」を手にすることで、私たちは融資先企業により深く寄り添い、地域経済の真の伴走者となることができるのです。

明日からできる第一歩は、自分の担当先のデータを整理し、可視化してみることです。月次の売上推移、業種別の収益性、資金繰りの傾向――それらを時系列で並べるだけでも、新たな気づきが生まれるはずです。データで変わる金融機関営業の新時代、その扉を開くのは、この記事を読んでいるあなた自身なのです。

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