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営業日報が"宝の山"になる ― データ活用で見える優良先・要注意先

金融機関の本業支援の現場で、日々記録される営業日報。この蓄積された情報が、実は融資先企業の将来性を見極める"宝の山"として機能し始めています。デジタル化とAI技術の進展により、これまで属人的な判断に依存していた企業評価が、データドリブンなアプローチへと変革しつつあります。
本記事では、営業日報をはじめとする営業データの活用が、いかに優良先の発掘と要注意先の早期発見につながるのかを解説します。

目次[非表示]

  1. 1.なぜ今、営業日報のデータ活用なのか
  2. 2.営業データに眠る"シグナル"を読み解く
  3. 3.データ活用の実践ステップ
  4. 4.データ活用を成功させる組織体制
  5. 5.データ活用の先にある未来
  6. 6.まとめ:データ活用は「手段」であり「目的」は顧客の成長支援

なぜ今、営業日報のデータ活用なのか

本業支援に求められる役割の変化

金融庁が2024年6月に公表した「地域銀行による顧客の課題解決支援の現状と課題」によれば、地域金融機関に期待される役割は、単なる資金供給から「広く経営課題の解決を支援すること」へと大きく変化しています。

実際、企業が認識する経営課題のトップは「労働力不足」(63%)、「取引先・販売先の拡大」(53%)、「人材育成・従業員福祉」(50%)であり、「設備資金の借入」や「運転資金の借入」を経営課題とする企業は全体の1割程度に過ぎません。つまり、融資先企業が金融機関に求めているのは、もはや資金の提供だけではないのです。

情報の非対称性という課題

一方で、金融機関が本業支援を効果的に行うためには、融資先企業の実態を深く理解する必要があります。財務諸表だけでは見えない「企業の現在地」を把握するために、営業担当者が日々記録する営業日報には、経営者の発言、事業の状況、組織の変化、市場環境など、財務データには表れない貴重な情報が含まれています。

しかし、これらの情報は従来、担当者の記憶や紙の記録として散在し、組織的に活用されることは少なかったのが実情です。

営業データに眠る"シグナル"を読み解く

優良先に見られる特徴的なパターン

営業日報やCRMシステムに蓄積されたデータを分析すると、優良先には特徴的なパターンが見えてきます。

【前向きな経営姿勢のシグナル】

  • 経営課題について具体的かつ詳細な相談が増加している
  • 新規事業や設備投資に関する情報収集が活発
  • セミナーや勉強会への参加頻度が高い
  • ビジネスマッチングなど非金融サービスへの関心が強い

【組織力向上のシグナル】

  • 後継者や幹部候補の育成に関する話題が出る
  • 人材採用の動きが活発化している
  • 社内制度の整備や業務フローの改善に取り組んでいる

【取引関係の深化】

  • 複数部門・複数担当者との接点が増えている
  • 本業支援サービスの利用実績がある
  • 経営計画や事業計画を共有してくれる

S信用金庫がNECと共同で構築したCRMシステムでは、顧客情報や日報などの営業活動情報を一元管理し、蓄積されたデータの利活用による営業力強化を実現しています。このような取り組みにより、訪問履歴や提案内容と成果(受注・失注、契約金額など)をセットで分析できるようになり、優良先の特性が可視化されるのです。

要注意先の早期警戒シグナル

一方、経営状況が悪化する企業にも、営業日報から読み取れる早期警戒シグナルが存在します。

【コミュニケーションの変化】

  • 訪問時の経営者の反応が消極的になる
  • 具体的な数字や計画の話を避けるようになる
  • 面談のアポイント取得が困難になる
  • 決算書の提出が遅延したり、資料の提供に消極的になる

【事業環境の悪化兆候】

  • 取引先や従業員の離脱に関する話題が増える
  • 資金繰りに関する相談の頻度・緊急度が上がる
  • 運転資金の追加融資依頼が急増する
  • 事業計画と実績の乖離が拡大している

【組織面の問題】

  • キーパーソンの退職や後継者問題が深刻化
  • 経営陣の意見対立や組織内の混乱の兆候
  • 業務品質やサービスレベルの低下

金融庁が2023年に実施した調査では、金融機関がAI活用により経営改善先を早期発見する取り組みを進めており、融資稟議書や業務日報の内容を参照してスコアリングできる仕組みの構築が進んでいます。このようなシステムでは、人間が見落としがちな微細な変化も、データパターンとして検知できる可能性があります。

データ活用の実践ステップ

ステップ1:営業日報のデジタル化と標準化

まず取り組むべきは、営業日報のデジタル化です。多くの金融機関では既にCRMやSFAシステムを導入していますが、重要なのは「入力しやすく、データがたまる仕組み」を構築することです。

効果的なデジタル化のポイント:

  • 入力項目を標準化し、自由記述と構造化データを組み合わせる
  • スマートフォン対応により、移動中や外出先からも入力可能にする
  • 音声入力やAI議事録ツールを活用し、入力負荷を軽減する
  • 入力内容が自身の営業活動の振り返りにも役立つ設計にする

H銀行では、2025年9月から融資稟議書の作成に生成AIを活用し始めました。顧客企業の財務情報や営業記録などを基に、AIが稟議書のドラフトを作成することで、年間約1万時間の業務削減効果を見込んでいます。このような取り組みは、データ入力の負担軽減と品質向上の両立を実現する好例です。

ステップ2:データの統合と可視化

営業日報、財務データ、取引履歴、サービス利用状況など、複数のデータソースを統合することで、より立体的な企業像が浮かび上がります。

統合すべき主要データ:

  • 財務情報:決算書、試算表、資金繰り表
  • 取引情報:融資残高、預金残高、取引年数、金利水準
  • 営業活動記録:訪問頻度、面談内容、提案履歴、サービス利用状況
  • 外部情報:業界動向、地域経済データ、信用情報

とあるグループ企業では、IBMの生成AIを活用し、CRMシステムやExcelシートなどから融資先の運転資金算定表や損益計算書、営業日報などの情報を統合的に参照できるシステムを構築しています。これにより、融資判断の精度向上と意思決定のスピードアップを実現しています。

ステップ3:スコアリングモデルの構築

蓄積されたデータを基に、企業の状態を客観的に評価するスコアリングモデルを構築します。単純な財務スコアリングだけでなく、営業日報から得られる定性情報も組み込むことで、より実態に即した評価が可能になります。

スコアリングの視点例:

  • 財務健全性スコア:自己資本比率、流動比率、債務償還年数など
  • 成長性スコア:売上成長率、新規事業への投資状況、人材採用状況
  • 関係性スコア:訪問頻度、コミュニケーションの質、サービス利用度
  • リスクスコア:資金繰り状況、経営者の姿勢変化、業界環境の変化

NTTデータが提供する地域金融機関向けAIサービスでは、融資業務における営業活動や審査の高度化を支援するソリューションが展開されています。AIを活用したスコアリングにより、従来は属人的な判断に依存していた部分を、データに基づく客観的な評価に転換できます。

ステップ4:アクションプランへの落とし込み

データ分析の結果は、具体的な営業戦略や支援策に落とし込まなければ意味がありません。

優良先に対するアプローチ:

  • より高度な本業支援サービス(DX支援、M&A、海外展開支援など)の提案
  • 担当者のランクアップや専門チームによるサポート体制の構築
  • 経営計画策定支援や定期的な経営課題の相談機会の設定
  • ビジネスマッチングによる販路拡大支援

要注意先に対する早期支援:

  • 定期的なモニタリング頻度の引き上げ
  • 経営改善計画の策定支援
  • 専門家(中小企業診断士、税理士等)の紹介
  • 事業再生や事業承継の選択肢の早期提示

金融庁の調査によれば、地域銀行の中には「正常先の下位先」と「要注意先」をターゲット先として、財務支援と成長支援の両方をセットで提供する取り組みを行っているケースもあります。早期の段階で適切な支援を行うことで、企業の立て直しと金融機関の健全性維持の両立が可能になります。

データ活用を成功させる組織体制

本部と営業店の連携

データ活用を実効性のあるものにするためには、本部の分析機能と営業店の現場力を融合させることが不可欠です。

効果的な連携体制:

  • 本部にデータ分析専門チームを設置し、定期的な分析レポートを提供
  • 営業店では、分析結果を踏まえた行動計画を策定・実行
  • データ分析結果のフィードバックループを構築し、精度を継続的に向上
  • 成功事例や失敗事例を組織横断で共有し、ナレッジベース化

専門人材の育成と配置

データ活用を推進するには、データ分析スキルと金融知識を併せ持つ人材が必要です。しかし、金融庁の報告書でも指摘されているように、多くの金融機関では「必ずしも専門性の高い人材の育成・確保が追い付いていない」のが現状です。

人材育成のアプローチ:

  • データサイエンティストの中途採用や外部専門家との連携
  • 既存職員へのデータリテラシー教育の実施
  • データ分析ツールの使い方研修や勉強会の定期開催
  • 小規模なパイロットプロジェクトで実践的なスキルを習得

現場の負担軽減と業務効率化

データ入力や分析が現場の過度な負担にならないよう、業務プロセス全体の見直しが重要です。

M銀行では、金融業務に特化した生成AIモデルを導入し、稟議書ドラフト作成、FAQ回答、議事録要約などの業務を効率化しています。こうした取り組みにより、営業担当者は事務作業から解放され、より付加価値の高い顧客対応に時間を使えるようになります。

データ活用の先にある未来

予測型営業への進化

蓄積されたデータとAI技術の組み合わせにより、「予測型営業」が現実のものとなりつつあります。企業の状態変化を早期に察知し、課題が顕在化する前に先回りした支援を提供することで、真の意味での「伴走型支援」が可能になります。

パーソナライズされた本業支援

データ分析により、各企業の成長段階や経営課題、業界特性に応じた最適な支援メニューを提案できるようになります。画一的なサービス提供ではなく、一社一社に合わせたカスタマイズされた支援が実現します。

地域経済全体の可視化

個別企業のデータが蓄積されることで、地域経済全体の動向把握も可能になります。産業クラスターの形成支援、地域内のビジネスマッチング精度の向上、地域課題の早期発見など、金融機関が地域経済のプラットフォームとして機能する可能性が広がります。

まとめ:データ活用は「手段」であり「目的」は顧客の成長支援

営業日報のデータ活用は、それ自体が目的ではありません。最終的な目的は、融資先企業の持続的な成長を支援し、地域経済の発展に貢献することです。

しかし、人口減少や経済縮小が進む地域において、限られた人的リソースで最大の効果を上げるためには、データに基づく戦略的なアプローチが不可欠です。営業日報という"宝の山"を掘り起こし、そこから得られる洞察を活用することで、優良先をさらに成長させ、要注意先を早期に立て直すことができます。

デジタル技術とAIの進化は、この取り組みを加速させる強力な追い風です。今こそ、蓄積された営業データの価値を再認識し、本業支援の質を飛躍的に向上させる好機と言えるでしょう。

皆様の金融機関でも、営業日報のデータ活用にぜひ取り組んでみてください。そこには、企業の未来を見通すヒントが必ず隠れているはずです。

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