
金融機関×地域ブランディング:融資先企業の真の成長を支える本業支援の新潮流
はじめに:なぜ今、地域ブランディング支援が求められるのか
金融機関の本業支援担当者として、日々融資先企業と向き合う中で、こんな悩みを抱えていませんか。
「良い商品を持っているのに売れない」「技術力はあるのに認知されていない」「地域資源を活かしきれていない」――。
実は、これらの課題の多くは「ブランディング」という視点で解決できる可能性があります。
内閣府の地方創生に関するモニタリング調査によれば、令和2年度時点で9割超の金融機関が「販路開拓支援」に取り組んでいるものの、中小企業の約7割が金融機関の経営支援に満足していないという現実があります。
この満足度のギャップを埋めるカギが、「地域ブランディング支援」なのです。本記事では、金融機関が地域ブランディングを通じて融資先企業の真の成長を支援する実践的なアプローチを、具体的な成功事例とデータに基づいてご紹介します。
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地域ブランディングとは何か:金融機関の視点から
地域ブランディングとは、単なる「商品の見た目を良くする」ことではありません。地域の資源や企業の価値を再定義し、戦略的に差別化を図ることで、持続可能な競争優位性を構築する一連のプロセスです。
金融庁の調査資料によれば、地域金融機関による地域商社の設立が2019年以降急増しており、近畿地方の地域金融機関が設立した地域商社では、伝統工芸品のブランディング支援や内装品受注支援を通じて、実際に販路拡大と収益向上を実現しています。
ブランディング支援における金融機関の役割は大きく3つあります。
第一に、地域資源の発掘と価値の再定義です。日常的な与信管理や経営相談を通じて得られる情報は、融資先企業が気づいていない自社の強みを発見する宝庫です。
第二に、戦略的なネットワークの構築です。金融機関は業種・地域を超えた幅広いネットワークを持っています。この優位性を活かし、デザイナー、マーケター、専門家、販路先を適切にマッチングすることで、企業単独では実現できないブランド構築が可能になります。
第三に、中長期的な伴走支援です。ブランディングは一朝一夕には成果が出ません。しかし、金融機関は融資関係を通じて長期的に企業と関わることができる立場にあります。この継続性こそが、真のブランド価値を育てる土壌となります。
データで見る地域ブランディング支援の効果
具体的な数字で、地域ブランディング支援の効果を見てみましょう。
全国地方銀行協会の地域密着型金融の取組み状況(2023年度)によれば、ビジネスマッチングの成約件数は前年度比1.8%増の75,949件に達しています。単なる紹介ではなく、ブランディング視点を組み込んだマッチング支援が、この成約率向上に寄与していると考えられます。
さらに注目すべきは、大阪にあるとある信用金庫の「商店街活性化事業」の事例です。この取組みでは、平成22年10月から28年9月末までに、連携道府県数40、連携商店街数73、出店者数延べ2,141を実現。総務省の簡易経済波及効果の計算式では、約13億円の経済効果を生み出しました。
この事例の本質は、大阪という消費地のブランド力と地方の特産品を戦略的に組み合わせ、「地方の物産×大阪の商店街」という新たな価値を創造した点にあります。金融機関が単なる資金提供者ではなく、ブランド戦略の設計者として機能したのです。
成功事例に学ぶ:金融機関主導の地域ブランディング3つのパターン
パターン1:地域商社モデル
H銀行が設立した地域商社による「北海道ブランド」の輸出拡大事例では、個別企業では難しい海外展開を金融機関がハブとなって支援しています。地域商社は単なる販売代理店ではなく、地域全体のブランド戦略を統括し、個別企業の商品を「北海道ブランド」という統一コンセプトで束ねることで付加価値を創出しています。
このモデルの成功要因は、金融機関が持つ信用力と情報集約力を活かし、バラバラだった地域資源を戦略的に統合した点にあります。四国4地銀が2020年に設立した「Shikokuブランド」も同様のアプローチで、四国の食品や特産品の魅力を統一ブランドで発信することで、個別企業では到達できなかった市場へのアクセスを実現しています。
パターン2:専門機関連携モデル
S銀行の「地域資源ブランディングと地域連携による観光振興施策」では、地域の大学、研究機関、デザイナー、知財専門家などとのネットワークを構築し、商品開発段階からブランド戦略を組み込んだ支援を展開しています。
知財総合支援窓口と連携した商標・ブランディング支援事例では、安売り競争から脱却を目指す企業に対し、新商品開発と同時に商標戦略を立案。結果として、価格競争に巻き込まれない独自ポジションの確立に成功しました。
この事例が示すのは、金融機関が「資金提供だけでなく専門知識のハブになる」ことの重要性です。融資先企業は専門家へのアクセス方法がわからないことが多く、金融機関が適切な専門家をタイミング良く紹介することで、ブランディングの成功確率が大幅に高まります。
パターン3:地域プラットフォームモデル
C銀行、H銀行、Y銀行など7行と日本政策投資銀行、海外需要開拓支援機構が連携した「瀬戸内ブランド推進連合」は、県境を超えた広域連携により「瀬戸内」という地域ブランドを構築した事例です。
個別の県や企業ではなく、「瀬戸内」というエリア全体をブランド化することで、観光・産品・文化を統合した強力な訴求力を生み出しました。金融機関が地方公共団体や事業者の垣根を越えたプラットフォームを構築し、民間事業者の事業化・事業拡大を継続的に支援する仕組みを確立しています。
実践のポイント:明日から始められる地域ブランディング支援
ここまでの事例から導き出される、実践的な支援ステップをご紹介します。
ステップ1:融資先企業の「埋もれた価値」を発見する
事業性評価の過程で、財務データだけでなく、技術力、歴史、地域との関係性、職人の技など、定性的な要素に注目しましょう。K信用金庫の「知財活用マッチング事業」では、企業が気づいていない技術や知的財産を金融機関が発掘し、新たな事業機会を創出しています。
RESASなどのデータ分析ツールを活用し、地域内での位置づけや潜在的な強みを客観的に示すことも有効です。C信用金庫やT信用金庫では、RESASを活用した自治体支援を通じて、データに基づいた戦略的なブランディング支援を展開しています。
ステップ2:戦略的なブランドコンセプトを共創する
発見した価値を、どう表現し、誰に届けるか。これがブランディングの核心です。O信用金庫の「売れる家具づくり」事例では、市と連携し、伝統工芸としての価値を現代のライフスタイルに合わせて再定義することで、新たな市場を開拓しました。
重要なのは、企業に押し付けるのではなく、対話を通じて一緒にコンセプトを創り上げることです。金融機関は第三者の視点から、市場ニーズと企業の強みをつなぐファシリテーターの役割を果たします。
ステップ3:適切な専門家・パートナーをマッチングする
ブランディングには、デザイン、マーケティング、知財、IT、販路など多様な専門性が必要です。阿波銀行の「産学金連携」事例のように、地方大学と中小企業を結びつけることで、技術開発とブランド構築を同時に進めることができます。
自行だけで完結しようとせず、信金中央金庫や他金融機関とのネットワーク、地域の支援機関、商工会議所などのリソースを積極的に活用しましょう。
ステップ4:小さく始めて、PDCAを回す
ブランディングは実験と改善の繰り返しです。O信用金庫の事例では、地域の大学に分析を依頼し、その結果をもとに継続的に実現可能なビジネスモデルを検討しました。アンケート調査、テストマーケティング、効果測定を組み込み、データに基づいて戦略を磨き上げていくプロセスが成功の鍵です。
ステップ5:中長期的な伴走支援体制を構築する
ブランド構築には時間がかかります。N信用金庫では、毎月の連絡会議で情報を共有化し、創業前から創業後のモニタリングまで一貫したサポートを実施しています。
単発のイベントやマッチングで終わらせず、定期的なフォローアップと改善提案を続けることで、真の企業価値向上とブランド定着が実現します。
地域ブランディング支援がもたらす金融機関へのメリット
ここで重要な問いがあります。「なぜ金融機関がブランディング支援をすべきなのか」。その答えは明確です。
第一に、融資先企業の収益力向上が、金融機関の経営基盤を強化します。ブランド価値が高まれば、価格競争から脱却し、利益率が向上します。結果として企業の返済能力が高まり、追加融資の機会も生まれます。
第二に、差別化された本業支援が、新規顧客獲得につながります。「あの金融機関はブランディング支援が強い」という評判は、創業希望者や成長志向の企業を引きつけます。
第三に、地域経済全体の活性化が、長期的な事業機会を創出します。地域のブランド価値が高まれば、移住者や起業家が増え、金融機関のビジネス環境そのものが改善されます。H信用金庫の「近居・住替え促進事業」では、半年間で71件27億円の融資を実施し、地域活性化と収益向上の両立を実現しました。
おわりに:「やらねばならない」から「やりたくなる」支援へ
地方銀行や信用金庫にとって、ブランディングは「やらねばならない」取組みです。しかし、本記事で紹介した事例が示すのは、それが同時に「やりがいのある」「成果の見える」支援であるという事実です。
融資先企業の商品が売れた、地域の特産品が全国に広まった、シャッター街に活気が戻った――。こうした目に見える変化は、金融機関職員としての誇りと喜びにつながります。
地域ブランディング支援は、融資先企業、地域社会、そして金融機関自身の三方良しを実現する、本業支援の理想形といえるでしょう。明日から、あなたの担当先企業の「埋もれた価値」を発見することから始めてみませんか。その一歩が、地域の未来を変える大きな流れを生み出すかもしれません。
宣研ロジエ株式会社では取引先の広告運用支援など、金融機関のパートナーとしてお手伝いいたします。
中小企業だからこそできる、お取引先様と目線を合わせたきめ細やかで、現実的な支援をご提供いたします。
地方銀行や信用金庫の実績もございますので、是非お気軽にお問い合わせください。


